三枝匡さんの「ザ・会社改造」が参考になりすぎたので、紹介します。
ミスミというBtoBでメーカー向けの部品や機材を販売している商社を舞台として、三枝さんが実際に社長になってから、一気に大きく成長させていく過程が描かれています。
創業社長が40年で売上500億円まで到達させたところを、社長に就任してから4年で2倍以上にして、1,000億円の大台に乗せます。
その4年間で、社内の意識をどう変えて、組織をどう変革していったかが説明されています。
まずは事業モデルの把握から
三枝さんは現状把握を進めて、ミスミの事業モデルを描くところからスタートしています。「強さの源泉」の本質は何なのかを突き詰めて考え、誰にでも理解しやすい図に落とすところからはじめています。
自社の事業モデルが優れているのに、その「構造」が整理されていない会社は、「事業モデル」という切り口で議論することを忘れ、事業モデルを強化するための総合戦略を放置している可能性が高い。競合企業が価値を見抜いて真似をすれば、こちらの有意性はいつの間にか消えていく。p34
社員の意識を変えるためのやり取り
社員の意識を変えるために、将来の経営人材になりそうな部下に何度も戦略を再考しなおすように促します。ときに強い言葉を意識的に使って、現状がどれくらい駄目なのかを部下に認識させるようにしています。
部下を鍛えるために、指針となる考え方すらも最初は提示せずに自力で調査分析をさせます。「戦略とは何か?」を部下に理解させようと試行錯誤している様子が描かれています。
競争相手とくらべて、勝てるストーリーになっているかを徹底して検討していきます。競争相手と比較されていない資料は突き返します。
また、市場で意味のあるサイズのプレーヤーになれなそうな事業以外はすべて中止して、撤退させていきます。
さらに、部下がどうしても進めなくなったときには、社長自ら会議室に乗り込んでいって、ハンズオンで途中の指針までを実際に作業して見せることで、部下の行き詰まりを解消します。
経営のフレームワークを磨き上げる
ボストンコンサルティンググループ(BCG)が提唱しているプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)は1970年代と、だいぶ昔から存在している経営フレームワークです。
縦軸を市場成長率、横軸を自社のシェアとして、自社の扱っている商品をプロットしていきます。成長率が高くてシェアも高い商品の「スター」、成長率は低いがシェアが高い商品を「金のなる木」、成長率が高いが自社がシェアをそれほど取れていない商品は「問題児」、両方低いのを「負け犬」と分類します。
これによってどの商品に資金を投下して、事業を成長・維持させていくかを判断するとうフレームワークです。
かなり古くからあるフレームワークで、事業間のシナジーが考慮されていない、既存事業のみが検討の対象になっているので新商品開発でつかえないといった問題点が指摘されています。あまり現在は使われていない経営フレームワークといえます。
しかし、三枝さんはこのPPMを徹底的に使い続け、実際にそれで結果を出しています。経験を元に独自のカスタマイズを加え、考え方を磨いていくことで、古いと言われているフレームワークでも役に立ち続けるということがわかります。
フレームワークというと、PPMのような教科書で説明されているようなものがイメージされますが、実際には経営者が過去の体験を抽象化したものすべてです。
「前にもこんな体験をしたな」と思ったときに、以前の解決方法を応用してすぐに問題解決の目星をつけられるようになります。これが積み重なっていくことで、多くの課題を素早く解決できるようになります。
部下をジャンプさせる
マインドもスキルもあるとわかっている部下をギリギリまで高いポジションにジャンプさせて、一気に能力をストレッチさせるという場面が何度も出てきます。
ギリギリ耐えられる、対処できるだろうという状態に部下を置くことで、急成長を促しています。
もちろんこのやり方で、ポジションが変わったのに以前と同じ考え方にしがみついてしまって結果が出せない人もいるのですが、それでもチャレンジさせることに価値を置くのは大切なことです。
部下が精神的に追い詰められて駄目にならず、成長を加速できるラインをどう見極めるかは、完璧にするのは難しいので経験によって鍛えていくしかないです。
セレモニーを改革で活用
成果が少しでも出たら、それを全社に周知させて、結果が出始めていることを伝えるのが重要であると書かれています。大きな課題が長期化して、いつまでも成果が見えないと、士気が下がり、組織が疲れてきて、仲間内で批判的な見方や抵抗派が力を増します。
現状維持に力がむいてしまっている社内の抵抗勢力を抑えるために、早めに取り組むようにします。
無責任なサラリーマン野党ともいえる人に対して、全社的に推進している事業であることを伝えて黙らせる効果もあります。
打ち手ごとの整合性をとる
ミスミくらい規模の大きな会社になると、大量の大掛かりな打ち手が同時並行で進められていくことになるのですが、それぞれが関連しあっていて、どれか1つでも失敗すれば全体がうまくいかなくなるという状態だったと説明されていました。
打ち手ごとの相乗効果を意識して決めていくというのを重視している三枝さんの姿勢が伝わってきました。
事業を元気にするには、《創る、作る、売る》を貫く《5つの連鎖》、すなわち「価値連鎖」「時間連鎖」「情報連鎖」「戦略連鎖」「マインド連鎖」を抜本的に改善しなければならない。複雑な機能別組織構造をそのままにして、これらの連鎖をひとつひとつこね回しても、目覚ましい改善効果はなかなか生まれない。p148
過度なアウトソーシングは危険
効率化という名目で社内で作業する業務をどんどん減らしていいくと、革新のための感度が削がれていってしまいます。
ミスミの場合、カスタマーサポートを担当しているコールセンターの業務を行っているのがすべて派遣社員になっていて、お客様からの意見や要望に社員が直接触れる機会がなくなっていました。
これによってお客様の声を元にスピード感をもって改善を行うという基本的な機能が低下してしました。
競合や顧客への対応が崩れているとき、本社は鈍感でも顧客との営業接点で多くの矛盾が表面化している。トップが社内組織を飛び越えて最前線に行くときは、スタンドプレイではなく、自社組織の背後に潜むビジネスプロセスのチグハグを顧客接点で感知することが大切だ。 p127
社内プレゼンで経営リテラシーを高める
経営陣の前で、事業責任者が事業について説明して、ボコボコにされるというプロセスを経て、承認されるまで先に進めないようになっているようです。
ミスミではこれによって社内に戦略思考を浸透させています。
感想とまとめ
何度も読み返すことになりそうな名著でした。
問題の本質を現場に降りていって探すところや、社員の意識改革をしていく流れが特に参考になりました。
また、商社なのに、生産機能を持つべきだと判断してメーカーを買収するという施策など、現状から大きく離れるような打ち手を考え抜いて実行していくプロセスにしびれました。
経営や組織運営にかかわっている人は一読しておくことをオススメします。
なお、三枝さんの他の本も名著でしたのでこちらもオススメです。
私が読んだのはもう10年くらい前で、ハードカバーしかなかったのですが、現在はいずれも文庫になっています。
「ザ・会社改造」と違って人名や組織名は仮名になっていますが、実際にあった事業立て直しをモデルにしたストーリーです。

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